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人と地球に誠実な仕事 [シリーズ]

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アリジェン製薬株式会社

アリジェン製薬株式会社は、「日本初を世界に」をモットーに、感染症に特化した創薬事業を展開している。日本で発見された「アフリカ睡眠病」の医薬品候補物質(新規化合物「アスコフラノン」)を、日本の技術および資本により、アフリカに対する初の貢献薬(利益を目的としない薬)とするプロジェクト「jHAT」について、代表取締役社長 所 源亮氏にお話を伺った。

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★創薬事業について
「感染症との闘いは終わった」と言われるが、依然として感染症はがんに次ぐ世界第2位の死亡原因である。地球温暖化や、人・生物資源の大規模でグローバルな移動に伴い、以前にも増して世界的な流行の危険性が高まっており、更にここ10年くらいの間は耐性菌との新たな戦いも顕著になってきた。しかしそれにも関わらず、エイズや肝炎などの医薬品開発を除けば、感染症薬の開発はほとんど研究対象とされていない。
このような中、アリジェン製薬株式会社(以後、同社)は感染症分野の創薬を主要事業とするバイオベンチャーとして着実な成長を遂げてきた。それには、以下の理由がある:
@ 感染症のための創薬においては、動物実験段階のデータ有効性と臨床実験のデータ有効性の相関関係が高い点。たとえばアルツハイマー(非感染症)の治療薬を作ろうとしても、マウスで効いたからと言ってヒトにも効くとは一概に言えないのだが、感染症においては微生物との戦いであるため、マウスで効いたからヒトにも効くという可能性が高い。
A 感染症は短期決戦型で早く治す必要があり、結果を見るのが早い点。
たとえば非感染症である糖尿病は3日では治せないが、傷口が膿んでしまったのを治すには数日で治せないといけないので、その薬の効果の判定が早い。
B 大手企業があまり参入していないので競合が少ない点。
感染症は短期間で治さなければならないため、「薬と一生のおつきあい」という訳にはいかず、大企業ではあまり創薬にメリットを感じていない傾向がある。


★社是「日本初を世界に」

日本の医薬品産業が国際市場に占めるシェアは高くないが、それは決して日本に開発力がないという訳ではない。世界で売られている薬のルーツの4分の1が日本由来であったり、1901年にフォン・ベーリンガーがノーベル賞をとった論文の共同執筆者は北里柴三郎氏であったり、世界で一番売れた人体薬(スタチン:遠藤章)そして動物薬/イベルメクチイン:大村智)の開発は日本人である。更に世界最大のバイオベンチャー・アムジェン社の基を築いたEPO薬の開発も日本人(東京大学医科学研究所の浅野グループ)によることからも分かる通り、日本の技術力は確かである。にもかかわらず日本の開発力の高さが見えにくい理由としては、日本では、製薬メーカーがグローバル戦略をとっていなかったこと、国立研究所・大学にTLOがなかったこと、バイオベンチャーを支援するインフラストラクチュアがなかったことを背景に、グローバルな医薬産業に於ける日本の存在が低くみられる現状があげられる。このような状況を背景に、日本で発見された、将来的に薬となりうる新規化合物を世界に出したい、日本発のものを世界に発信する、即ち、日本人科学者のアイデンティティを示すことが創業にあたっての強い問題意識であった。
現在、臨床段階にある新規化合物は全世界でおよそ300あるが、そのうち、大手が参入しているエイズと肝炎を除いた感染症のための化合物は30位しかない。にも関わらず、そのうちの7個を同社がシェアを持っているということは、このような強い思いが影響しているのである。


★日本発の新規化合物「アスコフラノン」によるアフリカ睡眠病治療薬

アフリカ睡眠病は原虫によって発症する病気で、毎年30〜50万人の新たな患者が発症し、2〜3万人が死亡している。ツェツェ蝿によって媒介され、感染初期には病原体が血流中で増殖し、慢性期には中枢神経系が侵されて最終的には嗜眠状態に陥って死に至ることから「アフリカ睡眠病」と呼ばれている。都市部から遠く離れた地域で流行するため多くの感染者が治療を受けられずに死亡し、被害の大きさが確定できない。家畜類の被害はさらに甚大であり、アメリカ合衆国と同じ面積の大草原において牧畜が困難な状況である。サハラ砂漠以南の37カ国で牛だけでも6千万頭が感染の危機にさらされ、年間の経済的損失が50億ドル以上にも上るという、アフリカの健康と経済的発展を著しく妨げている感染症である。
東京大学の田村教授が発見した、糸状菌が生み出す「アスコフラノン」という物質が、このアフリカ睡眠病の原因である原虫の増殖を非常に低濃度で特異的に阻害することを東京大学の北教授らが見出した。そして「アスコフラノン」が劇的に効くということを聞き、同社では日本で発見され日本の技術および資本によりアフリカに対する初の貢献薬とすることを決めたのである。現在のアフリカの国々には、アフリカ睡眠病に対する治療薬を開発する余力はない。日本にはアフリカ睡眠病は無いものの、その創薬に必要となる先端的科学技術が存在すると同時に、その達成に向かおうとする心意気のある科学者が存在するのだ。
このプロジェクトは日本主導によるアフリカ睡眠病(HAT)治療薬の開発計画(Japan Human African Trypanosomiasis: jHAT)と命名された。


★jHATプロジェクトの流れ

一般的に、新規化合物の発見から製品として薬が市場に出回るまでには、12〜15年くらいかかる。jHATプロジェクトでも下記の様な流れにおいて、発見段階を同社が行っている。その後はjHAT計画として相応しいパートナーと共にプロジェクトを推進する方針である。
・発見段階:どんな化合物が効き目があるのかを見つける段階。結果的に最もお金がかかる(全行程の35%)しリスクも高い。
・前臨床段階:実験動物で安全性・安定性・有効性・代謝等を調べる
・臨床段階(フェーズT):日本に於いて日本人が身を呈して安全性を確かめる。
・臨床段階(フェーズU、フェーズV):実際に患者のいるアフリカでグローバル展開している製薬企業とWHOの協力のもと、有効性を検証する。
・普及段階:フェーズU及びフェーズVにおいてヒトでの有効性が実証されれば許可を取得し、CSR活動の一環として製薬会社が薬を製品化してWHO、DNDi等が普及活動を展開する。
現在、既に前臨床段階も終了に近づいており、臨床段階(フェーズT)に入る準備を行っている。現在ある薬(エフロニチン)は2週間の点滴で治療しているが、jHATが開発する薬により、1回の注射(次は経口剤を目指す)で治せる様になるとのことである。これにより治療に伴う痛みも死亡率も大幅に低減できることになる。


★jHATの目指すゴール

薬が出来上がり、アフリカ睡眠病が治療できるようになると、これまでに開発が進められなかった地域にヒトや家畜が入れるようになるが、本プロジェクトが目指すのはそれに留まらない。人が入れるようになると、従来そこに暮らしていた動植物(ゴリラにシンボリックに代表される)などの生態系が大きな影響を受けることが予想される。20世紀までの帝国主義的な開発と同じ轍を踏まないよう、サステナブルな開発のためには生物多様性なども考慮する必要がある。そこで本プロジェクトのロゴはこのようなコンセプトがよく表れている。

左記ロゴは製作途中のものである。日本人の目からみたアフリカに今後、ゴリラのイラストをあしらう予定とのことである。ゴリラを選んだのには。ゴリラに象徴されるサハラ以南のジャングルを守れるような共生型の開発を進めるべき、との想いをこめたいとのことであった。
既に発見されていた新規化合物を用いて薬を作ることが出来る本プロジェクトは、もっともコストのかかる段階をバイパスすることが出来たこともあり、「利益」という指標ではなくその開発の努力と成果に対する正当な「認識」を重要視にしている。今後、製薬会社が製品化した薬をWHOとともに普及していく際、jHATのメッセージとして薬のパッケージ・ラベル・添付文書そして広告資料にこのロゴと”This drug (not for profit) is developed by the Japanese for the people of Africa(この薬は、アフリカの人々のために日本人が開発した貢献薬です)”を明記する義務を製造・販売者が負う事を研究開発(jHATプログラムに参加した企業、団体等)に対するロイヤリティに代るものとしている。本プロジェクトにとっては、薬が人々の手元に届いた時点で最終的に残るのはこのロゴ或いはそのメッセージだけであるため、薬とロゴが一緒に世界に出ていくことで本プロジェクトに込められた思想もミッションも理解される。


★所氏へのインタビュー

Qアフリカ睡眠病で苦しむ人々を助けることが出来る、そして貧困から抜け出すためにこれまで立ち入ることの出来なかった地域の開発も出来るようなる…というところで終わらず、更に一歩進んで生物多様性にも配慮した21世紀型の共生型開発を目指したい、というお考えには頭が下がります。そのようなお考えに至るには、何か原体験のような強烈なご経験や想いがおありなのでしょうか?
A.もともとアメリカの穀物種子会社に勤務していました(所氏は10年間、世界最大の種子会社パイオニア・ハイブレッド・インターナショナルに在籍している)。人口増加に応じてどうやって生産性を上げていくかの一点でしたが、開発の歴史(ブラジルの大豆・トウモロコシの生産地の開墾)を見ていると、“ヒトとヒトの南北問題の解決”だけではダメで、21世紀は“ヒトと他の生物との南北問題の解決”も俯瞰しなくてはならない時代だということを強く感じました。


Q先日開催されたセミナーでのお話の中では、jHATプロジェクトは、ホップ・ステップ・ジャンプの次に来る「ドリーム」とおっしゃっていらっしゃいましたが。
A.ホップは売上100億円規模の商品グループ、ステップは売上500億円規模の商品グループ、ジャンプは売上1,000億円規模の商品グループの開発を意図しています。これまでにホップ・ステップ・ジャンプと開発品を揃えて来ました。笑われるかもしれませんが、お金が儲かる前に、お金が集まってきたらどうするかを考えてその対策というか哲学を準備しておく必要があると思った訳です。そこでドリームという概念をつけ、ホップ・ステップ・ジャンプandドリームといっています。日本の開発力を示し、日本人のアイデンティティを示す、だれもやらない利益が全く期待できない遠くの国々のヒトの為の薬の開発です。そこに田村教授が発見された新規化合物があった。どうしようかと考えていたら北教授からこれはアフリカ睡眠病に効く凄い薬になるということを聞いてプロジェクトをスタートしました。DNDiの募集プロジェクト(96案件の応募の中から2件が採択された)にも採択されました。DNDiは、すべての開発を引き継ぎ、スイス主導でHAT薬の開発をすすめたいと申し入れて来ました。それでは一番大変だった開発の探索をした日本のアイデンティティが失われてしまう。jHATの参加者全員がそう考えた。そこでjHATプロジェクトを立ち上げました。
実はこのドリームのことは、今年の株主総会で初めて提示しました。ある程度実績を積み上げてからにしようと、これまでは伏せていた経緯がありましたが、戦略的にやったことなんです。実績も積み重ねてきたので、株主総会では誰も批判をしませんでした。積極的に応援すると言ってくれました。

Q本プロジェクトのロゴとともに薬がアフリカに行き渡る事を、日本人にも知ってほしいですね。
A.そこで、山内一也先生と北潔先生に、岩波書店よりアフリカ睡眠病に関する本を今年1月に上梓してもらいました。わが社単独ではとてもできることではありません。アフリカにおける開発は欧米が主導権をもっていますから、jHATのようなシンボリックな活動を行うのであれば、日本を代表する企業がヒトとヒトのみならず他の生物との南北問題までも俯瞰した「21世紀型の開発」をテーマにすすめていただくというのが望ましいですね。薬の提供だけではなく、日本が貢献する新しいビジョンも示すことができると期待しています。是非そのようなパートナーにjHATを任せたいと願っています。

取材/執筆:(株)ソシオ エンジン・アソシエイツ 齊藤 紀子

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