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働くことは生きること

欧米、中東、アジアに拠点を持ち、
世界を駆けるベンチャーキャピタリスト、
原丈人氏に聞く!
働くとは。生きるとは。

デフタ・パートナーズグループ会長 原丈人氏

Part3 技術を使って世界を変える

原丈人(はらじょうじ)氏
1952年、大阪生まれ。慶應義塾大学法学部、スタンフォード大学経営学大学院を経て、同大学工学部大学院修了。84年ベンチャー・キャピタルのデフタ・パートナーズを創業、グループ会長に就任。おもに情報通信技術分野でベンチャー企業の育成と経営に携わってきた、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストの一人。アライアンス・フォーラム財団代表理事の他、日本政府の財務省参与、政府税制調査会特別委員、産業構造審議会委員、国際連合本部経済社会理事会常任諮問団大使兼WAFUNIF代表大使なども務める。

――XVDという新しい技術を活用して途上国支援に取り組んでいますね。

 はい。2005年からアジアの最貧国の一つ、バングラデシュで「bracNet※プロジェクト」を実施しています。バングラデシュは、急速な経済成長を遂げている一方、国民の半分は読み書きができず、国民の7割が農村で自給自足し、平均所得が1日1ドル以下という実情があります。この国の人々の生活向上のために、NGOのBRACと共同で、最先端の無線技術WiMAXや最先端動画圧縮技術XVDを活用したインターネット網を構築する事業に取り組んでいます。具体的には、このインフラを用いて遠隔教育と遠隔医療を手がけています。バングラデシュでは、人口のほとんどが病院から遠い農村で生活しているため、適切な医療行為を受けられず、病気になっても対処方法がわからない場合も多いのです。XVDを使った遠隔医療システムにより、皮膚の症状を細密な映像で送ることができれば、早期に適切な治療が可能になるのです。通信インフラの整備されていないこの国でXVDの導入が可能なのか不安でしたが、初実験が成功した時は本当に嬉しく思いました。
 
※bracNet社:デフタ・パートナーズがバングラデシュにおける世界最大NGOであるBRACとの合弁で設立したインターネット・サービス・プロバイダ。最新の無線技術であるWiMAXを活用し、低コストで効率的なISPネットワークをバングラデシュ全土に展開中。
 
途上国援助ではなく、経済的に自立した事業に
05年10月の事業を立ち上げてから07年に初めて売上が立ちました。それ以降、売上高は倍増していて、今年度は昨年度の2倍以上になると見込んでいます。この事業のポイントは二つあります。一つは、われわれが開発したXVDなどの最新技術を用いていることです。従来のインフラ整備と比べて、数十分の一のコストで実現しています。もう一つは、これが現地NGOとの合弁事業だということです。bracNetはわれわれDEFTAが60%、残りの40%をBRACが出資しています。BRACは公益法人なので、法人税を免除されており、売上は非課税です。さらに株主配当もありませんから、仮にこの合弁会社が10億円の税引き前利益を出したとすると、4億円が教育や医療にそのまま活用できるということです。これが通常の株式会社であれば、法人税で5億円、配当金で4億円が引かれ、教育や医療に使えるのは、さらにその中の一部です。このことからも、bracNetモデルが画期的な仕組みであることが分かると思います。
バングラデシュでの成功例に続いて、ラテンアメリカやアフリカでも、NGOや民間企業と共同で同様の仕組みを展開したいと思っています。
 
アフリカでは、「スピルリナ・プロジェクト」を実施しています。世界の死亡原因の第1位は飢餓・栄養失調ですが、この問題を解決するために、高タンパク・高ビタミン・高ミネラルのスピルリナを活用しています。アフリカの場合は医療や教育の以前に、飢餓の問題があります。これを旧来のような援助ではなく、国連旗のもとにおける民間の事業支援というスキームを使おうと考えたのがスピルリナ・プロジェクトです。具体的には、日本の若者、看護学生や大学生を広く募って10名程度からなるチームを組み、現地の病院・学校・地域の食糧配給システムのもとでスピルリナを支給してもらいます。未来ある若者には貴重な体験となるでしょうし、世界に貢献する日本人づくりにもなると思っています。このプロジェクトは、まずザンビアで実施する予定です。さらに電力、薬品、通信網などを必要とする国なので、電力会社、製薬会社、通信会社などの企業使節団をアライアンス・フォーラム財団が組織して同時期に行きます。参加希望者がおられましたら連絡をください。info@allianceforrum.org
 
※スピルリナ:長さ0.5mmほどの、藻の一種。約三十五億年前から存在する。タンパク質含有量は、牛肉の約3倍、大豆の約2倍。きわめて生産性が高く、狭い土地や悪条件でも生育が可能。
 
 
日本を世界中から必要とされる国にする
 
――新しい技術による貧困解消、民間による途上国支援、人材育成など壮大なスケールで活動を続けていらっしゃる原さんですが、今後の展望はありますか?

 最新技術を活用した教育・医療分野での途上国支援やスピルリナによるアフリカの栄養不良改善など、こうした新しいビジョンをまず自分で実験してみて、失敗もありますが、うまくいったものに関しては広く発信する。私はこれまで有言実行の活動を展開してきましたし、これからも続けたいと思っています。
日本にはモノづくりに支えられた技術力が蓄積されているので、これを土台にして中長期の研究開発を行い、ポストコンピュータ時代の核となる技術をつくる。その新技術を途上国で特に教育や医療分野に活用する事業モデルを開発し、日本人の手によって普及させたい。世の中のために智恵や能力を使う人材が多く育てば、日本は世界中から必要とされる国になるのではないかと思っています。また、次世代のコア技術となる優れた技術をしっかり育てていくことができれば、無駄な公共事業の削減や医療の削減など歳出が削減できますし、基幹産業も育成されます。
 
――現在、就職難の時代の新しい働き方として“社会的企業家”や“社会起業家”、“ソーシャルビジネス”への関心が特に若い世代の間で高まっていますが、原さんにとって、働くこととは何でしょうか?

 若い人に対しては、若いうちに発展途上国に行って、貧困の実態を自分の目で見ること、さまざまな価値観を受け止める許容量を広げて欲しいですね。私も若いときに中央アメリカで貧困を目の当たりにして大きな衝撃を受けましたが、将来いろいろな危機を乗り越えていく糧になると思います。
まず大きな夢を持って、今の自分とその夢・目的の間に、目に見えない階段を自分でつくってみて、最初の階段から一歩ずつ上っていくこと、それを続けていく。自分にできることをやっていくことが大切ですね。ある程度成功しても、初心を忘れずにこつこつ歩む。時間はかかるかもしれませんが必ず実現します。自分との闘いですね。
 
全ての企業がソーシャルビジネスを行う主体
 
私はベンチャー・キャピタリストという職業柄、いくつもの公開企業を生み出し、その創業者や従業員たちを億万長者にしてきました。でも私が見るところ、本当の意味で幸せになった人はほとんどいません。お金持ちが幸せと信じ込ませるようなアメリカンドリームは幻想です。何が幸せであり、何を目標にすべきか、アメリカンドリームに変わる新しい価値基準をもう一度考え直す時期に来ているのではないでしょうか。
 
「会社は株主のもの」という間違った考え方がはびこっているとお話しましたが、会社というのは、経営者や従業員、株主、顧客、地域社会、地球環境まで含めたステークホルダー全てのものであるはずです。ですから会社の目的というのは、事業を通じて社会に貢献するか、事業で生じた利益を使って社会に貢献するか、いずれかしかあり得ません。全ての企業がソーシャルビジネスを行う主体であり、事業を通じて社会に貢献する役割も持つと思います。
今ソーシャルビジネスに取り組んでいる方々に対しては、中長期的視点で経営をしてほしいと思います。初めの数年は収入がなくて苦しいかもしれませんが、情熱や信念を馬力にして頑張ってほしいと思います。実は私自身も、スピルリナ事業に関しては、収益化の方法をまだ思いついていないんです。ですが、絶対に成功させたいという情熱や信念をつらぬき、bracNetの事業モデルを考えた時のように、広い視野を持つことで、収益の仕組みを工夫して考え出せると信じています。

 

――「Part1 考古学研究からビジネスへ」を読む

――「Part2 未来の可能性を秘めたベンチャー企業を育成する」を読む 
(取材・文:福沢寛子)

マイクロファイナンス・プロ養成コース導入編を開設
マイクロファイナンスのニーズが高まっている現在、マイクロファイナンスの分野での専門家を養成するため、バングラデシュにおいてアライアンス・フォーラム財団とBRAC大学が共同で、2009年9月にマイクロファイナンスに関して礎から理解を深めたい方へ向け、10日間のマイクロファイナンス・プロフェッショナル養成コース 導入編を開設します。同コースは、マイクロファイナンスの現状、マイクロファイナンスの出現と抱えている課題、マイクロファイナンスの将来に関して幅広い知識と経験の場を提供します。2009年9月開講の第1回短期コースに参加をして、一緒にバングラデシュにてマイクロファイナンスを学びませんか?
詳しくは http://www.allianceforum.org E-mail:info@allianceforum.org


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